業務をクラウドに移した会社で、通信に何が起きているのか

会計ソフトをクラウドに移し、ファイルの保管場所を社外のサービスに変え、勤怠も名刺も顧客管理もブラウザから使うようになった。ここ数年で、多くの中小企業がこの移行を経験しています。便利になった一方で、オフィスの通信には静かな変化が起きています。

「使うとき」から「常につながっている」へ

かつて、社内のデータは社内にありました。ファイルサーバーは事務所の隅に置かれ、社員はそこにアクセスして仕事をしていた。インターネットは、外部とやりとりするときに使うものでした。

クラウドへ移行すると、この構図が反転します。日常的に開くファイルも、日々入力するデータも、すべて社外にあります。つまり、業務のほぼすべてがインターネットを経由することになります。

この変化は、通信量が増えるという話にとどまりません。通信が「業務の一部」から「業務の前提」に変わったということです。

気づきにくい常時通信

クラウドのファイル保管サービスを使っていると、パソコン上のフォルダと社外のサーバーが自動的に同期されます。誰かがファイルを更新すれば、その変更が各端末へ反映される。

この同期は、社員が意識しないところで動き続けています。大きなファイルが更新されれば、その分の通信が発生する。バックアップの設定によっては、まとまった量のデータが定期的に送られていることもあります。

「誰も何もしていないのに通信が発生している」という状態は、クラウド中心の環境では当たり前のことです。そしてこの分の負荷は、契約を検討したときには想定に入っていなかった可能性があります。

社外からのアクセスが増える

クラウド化のもう一つの帰結が、働く場所の自由度です。自宅からでも、出張先からでも、同じシステムにつながる。

ただしこれは、社外からの通信が増えるということでもあります。オフィスに人がいなくても業務は動き、逆に全員が出社した日には社内からの負荷が集中する。日によって通信の様子が大きく変わるのが、クラウド前提の職場の特徴です。

一日の中に生まれる山

クラウド前提の職場では、通信の負荷が特定の時間帯に集中します。

始業直後という時間帯

朝、社員が一斉に出社してパソコンを立ち上げる。各端末が同時にログイン処理を行い、更新を確認し、前日分の同期を始める。メールソフトが受信を開始し、業務システムが読み込まれる。

この数分間、オフィスからは相当量の通信が同時に発生しています。「朝だけ動きが重い」という声が出る会社は珍しくありませんが、原因の多くはここにあります。

月末や締め日の集中

もう一つの山が、業務の周期です。請求書の発行、月次の締め処理、在庫の棚卸し。特定の日に処理が集中する業務では、その日だけ通信量が跳ね上がります。

普段は問題なく動いているのに、いちばん忙しい日に限って重くなる。この現象は、平常時の使い方だけを見て契約を決めていると起こりがちです。

何を基準に環境を整えるか

クラウド前提の環境を支えるために、どこを見て判断すればいいのか。基準になる考え方をいくつか挙げておきます。

平均ではなく、ピークで考える

通信環境を検討するとき、平均的な使い方を基準にすると足りなくなります。見るべきなのは、いちばん負荷がかかる瞬間です。

始業直後、月末、全員が出社する日。その状態でも業務が滞らないかどうか。ここを基準に置くと、必要な条件が現実に近づきます。

端末の台数を数え直す

もう一つ、見落とされやすいのが接続台数です。

社員一人あたりが持つ端末は、増える傾向にあります。パソコン、スマートフォン、タブレット。加えて、複合機、監視カメラ、入退室の管理機器、スマート家電に近い設備。これらもネットワークにつながっています。

従業員数だけで考えると、実際の接続台数を大きく見誤ります。一度、社内でネットワークにつながっているものを数え上げてみると、その多さに驚くかもしれません。

止まったときの影響を把握しておく

クラウド中心の環境では、通信が止まると業務が止まります。社内にデータがあった時代なら、ネットが使えなくても手元の作業は続けられました。今はそうはいきません。

これは不安を煽る話ではなく、環境を選ぶ基準が変わったという話です。通信は、あれば便利な設備ではなく、なければ何も動かない土台になった。そう捉えると、どこにコストをかけるべきかの判断も変わってきます。

相談できる相手がいるかを確かめる

クラウドのサービスを導入するとき、多くの会社はそのサービスの提供元とやりとりします。しかし通信環境そのものについては、相談する先が別になっていることがほとんどです。

業務システムが重いという症状が出たとき、それがサービス側の問題なのか通信側の問題なのかを切り分けられる相手がいるかどうか。クラウド前提の環境では、この点が実務的に効いてきます。

移行の後に、環境を見直したか

クラウドへの移行は、業務の効率を大きく変える取り組みです。多くの会社が、ソフトの選定や運用ルールには時間をかけます。

一方で、その土台となる通信環境を同じタイミングで見直した会社は、それほど多くありません。使い方だけが変わり、回線は数年前のままという状態は、かなり一般的です。

クラウド移行を終えた今こそ、契約内容が現在の使い方に合っているかを確認する良いタイミングかもしれません。