店舗のインターネットは、お客様も使っている
飲食店、美容室、クリニック、小売店。店舗のインターネット回線は、事務所とは事情が異なります。使っているのがスタッフだけではないからです。会計も、予約も、そしてお客様の手元のスマートフォンも、同じ一本の回線につながっています。
店舗の回線につながっているもの
改めて数えてみると、店舗の通信環境には想像以上のものがぶら下がっています。
キャッシュレス決済の端末、POSレジ、予約管理のシステム、順番待ちの受付機。スタッフが使うタブレットやパソコン。防犯カメラ、デジタルサイネージ、BGMの配信サービス。そして、お客様に提供しているフリーWi-Fi。
これらが同時に動いているのが、営業中の店舗です。事務所と違って、通信が止まったときの影響が売上そのものに直結する点も特徴と言えます。
決済が止まるということ
なかでも影響が大きいのが決済です。
キャッシュレス決済の比率は年々高まっており、現金を持たずに来店するお客様も増えました。決済端末がつながらなくなれば、会計そのものができません。レジ前でお待たせすることになり、場合によっては購入を諦められてしまいます。
しかも、こうしたトラブルは混雑している時間帯ほど起きやすい。同時に通信が集中する時間と、店舗が忙しい時間は重なるからです。
現金だけでしのげるとは限らない
通信が止まっても現金があれば会計はできる、と考えたくなります。しかし実際には、レジそのものがクラウド上のシステムで動いている店舗も増えました。
商品情報の読み込み、売上の記録、在庫の管理。これらがつながらなければ、現金であっても通常どおりの会計は難しくなります。停止時にどこまで手作業で対応できるのかを、一度確認しておく価値があります。
お客様向けWi-Fiという特殊な存在
多くの店舗が、来店されたお客様向けに無線接続を提供しています。サービスとしては当たり前になりましたが、これは通信環境の設計に独特の条件を持ち込みます。
使われ方が予測できない
業務用の端末であれば、何にどれくらい使うかはある程度わかります。ところがお客様の利用は、こちらでは制御できません。
動画を再生する方もいれば、大きなファイルをやりとりする方もいる。滞在時間の長い業態であれば、一人あたりの通信量はさらに増えます。混雑時に多くのお客様が同時につなげば、その負荷は無視できない規模になります。
業務用と分けるという考え方
ここで重要になるのが、お客様向けの通信と業務用の通信を分けておくという発想です。
分離していない場合、お客様の利用状況が決済端末や予約システムの動作に影響する可能性があります。逆に言えば、分けておけば、来店が集中しても業務側の通信は守られます。
セキュリティの観点からも、この分離には意味があります。店舗の業務システムと同じネットワークに不特定多数の端末がつながる状態は、望ましいものではありません。多くの機器には、来客用のネットワークを別に用意する機能が備わっています。設定してあるかどうか、一度確認してみる価値があります。
店舗ならではの制約
事務所であれば当たり前にできることが、店舗では難しい場合があります。設計の段階で押さえておきたい条件を見ていきます。
設置場所と配線の問題
店舗は、事務所ほど自由にケーブルを引き回せません。お客様の目に触れる場所を通すわけにはいきませんし、内装の意匠を損なうこともできない。
そのため、機器の設置場所や配線経路は、内装工事と一緒に考える必要があります。開業後に「ここに端末を置きたいが電波が届かない」と気づいても、対応には手間がかかります。
電波が届きにくい構造
店舗の内装には、電波を通しにくい素材が使われていることがあります。厚い壁、金属製の什器、大型の冷蔵設備。奥まった席や個室、二階のフロアで電波が弱くなるというのは、よくある話です。
決済端末を持って移動する運用をしている場合、店内のどこでも安定してつながるかどうかは実務に直結します。
営業時間とサポート時間のずれ
もう一つ、店舗特有の事情があります。営業時間が一般的な事務所より長いことです。
朝早くから、あるいは夜遅くまで営業している店舗では、トラブルが起きる時間帯も広がります。そのとき相談できる窓口があるかどうかは、事務所以上に切実な問題になります。契約しているサービスのサポートが何時まで受け付けているのか、確認しておきたいところです。
多店舗展開を見据える場合
一店舗目のときは、その場で使いやすいものを選べば済みます。ところが二店舗目、三店舗目と増えていくと、店舗ごとに契約も窓口もばらばらという状態になりがちです。
出店のたびに一から検討し直す手間、店舗ごとに異なる請求、不調の連絡が来たときにどこと契約しているか調べるところから始まる状況。将来的に店舗を増やす構想があるなら、一店舗目の段階でその先を見据えておくと後が楽になります。
売上を支える設備として
店舗にとってのインターネット回線は、業務を効率化する道具である以前に、会計を成立させるための設備です。
決済、予約、接客。そのすべてが通信の上に乗っている以上、回線は什器や照明と同じ、店を成り立たせる設備の一つと考えるべきものかもしれません。開業のときも、リニューアルのときも、その視点で見直してみることをおすすめします。

